通勤電車の中や就寝前のベッドの上など、私たちの日常的な「スキマ時間」において、スマートフォンを縦に持って動画をスワイプする光景は完全に定着しました。かつて縦型動画といえば、ダンスや短いお笑いコンテンツが主流でしたが、現在のタイムラインの主役は大きく入れ替わっています。今、最も熱狂的な支持を集めているのが「縦型動画のドラマ」、すなわち縦型ショートドラマです。
数分という短い尺の中で本格的な物語を展開するこのフォーマットは、エンターテインメント業界のみならず、企業のマーケティング戦略をも根底から覆すほどの勢いを見せています。 本記事では、日本における縦型ショートドラマ市場のパイオニアであり、SNSでの累計再生数100億回を突破したクリエイター集団「ごっこ倶楽部」を運営する株式会社GOKKOの知見を基に、「なぜ縦型動画でドラマを作るのか?」という根本的な理由から、横型映像とは全く異なるヒットの法則、そして企業プロモーションにおける絶大な価値までを徹底解説します。
1. 8.8兆円市場へ。「縦型動画のドラマ」が急成長する背景
Z世代の「テレビ離れ」とタイパ消費
縦型動画のドラマがこれほどまでに急速に普及した最大の要因は、若年層を中心としたメディア接触態度の変化です。 株式会社GOKKOが注視しているデータ(NHK放送文化研究所の調査等)によれば、10代から20代の約半数が「ほぼテレビを見ない」生活を送っています。彼らにとってのメインスクリーンは、リビングのテレビではなく手元のスマートフォンです。
さらに、Z世代は「タイムパフォーマンス(タイパ)」を極限まで重視します。結末が面白いかどうかわからない1時間のドラマを腰を据えて見るよりも、移動中の数分間で確実に感情が動く体験を求めているのです。縦型動画のドラマは、この「短い時間で高い満足度を得たい」というタイパ消費のニーズに完璧に合致したコンテンツと言えます。
中国市場が示す「映画を超える」未来
このトレンドは日本だけのものではありません。市場調査会社YH Researchのデータによると、縦型ショートドラマの世界市場規模は2024年の約55億ドルから、2029年には約8.8兆円(556億ドル)にまで達すると予測されています。 ショートドラマ発祥の地である中国では、すでに市場規模が約1兆円を超え、従来の映画の年間興行収入を上回るほどの巨大産業へと成長しています。株式会社GOKKOは、日本市場もこの流れを追い、数年後には縦型動画のドラマがエンタメのメインストリームになると確信しています。

参照記事:なぜ今、企業は“ドラマ”に投資するのか? GOKKOがけん引する縦型ドラマ経済圏 |ビジネス+IT
2. 横型ドラマとは全く違う「縦型動画」ならではの文法
映像制作者が陥りやすい最大の罠は、「テレビや映画(横型)のドラマを、ただ縦に切り取ればいい」と考えてしまうことです。株式会社GOKKOの代表取締役である田中聡氏は、「横型の撮り方で撮ってしまっている」ことが失敗の大きな原因であると指摘しています。縦型動画には、縦型ならではの全く異なる文法が存在します。
「WEBREEN」が生み出す圧倒的な没入感
株式会社GOKKOが提唱しているのが、WebとScreenを融合させた「WEBREEN(ウェブリーン)」という新概念です。 映画館のスクリーンは巨大ですが、観客との物理的な距離は数メートル離れています。一方、スマートフォンの縦型画面は小さいものの、目との距離はわずか数十センチです。視野に占める画面の割合(占有率)で言えば、スマホのフルスクリーンは映画館に匹敵するほどの没入感を持っています。
この「近さ」を活かすため、ごっこ倶楽部の撮影現場では、状況を説明するための「引きの画」よりも、登場人物の感情をダイレクトに伝える「顔の接写(アップ)」が多用されます。背景を作り込むよりも、役者の微細な表情の変化を縦長の世界にいっぱいに映し出すことで、視聴者は「自分に直接話しかけられている」「目の前で事件が起きている」という強烈な当事者意識を持つようになります。
「横並び」を捨て「Z軸」を支配する
また、構図の作り方も異なります。横型のドラマでは、二人の人物が横に並んで会話するシーンが一般的ですが、横幅の狭い縦型動画でこれをやると窮屈になってしまいます。 そのため、ごっこ倶楽部の制作では「手前と奥」というZ軸(奥行き)を意識した構図が多用されます。肩越しに奥の人物を映したり、廊下や並木道など奥へと視線が抜けるロケーションを選んだりすることで、狭い画面の中に擬似的な立体感と空間の広がりを演出しているのです。

参照記事:TikTokフォロワー170万人の「ごっこ倶楽部」に聞くショートドラマの魅力、日テレ・JALの成功事例&低コスト制作の裏側 | Web担当者Forum
3. スワイプを防ぐ!縦型動画ドラマの「脚本」と「編集」
スマートフォンのタイムライン上では、視聴者は少しでも退屈だと感じれば、わずか1秒で次の動画へスワイプ(離脱)してしまいます。この過酷な環境で数分間のドラマを最後まで見せるためには、脚本と編集に特殊なロジックが必要です。
「起承転結」を排除し「転」から始める
学校で習う「起承転結」の構成は、縦型動画のドラマにおいては致命的な欠陥となります。「起(状況説明)」から物語を始めると、その数秒間が視聴者にとって「退屈な時間」とみなされ、即座にスキップされてしまうからです。
株式会社GOKKOの脚本術では、冒頭の1〜2秒にクライマックス級の「転(ハプニング)」を持ってきます。いきなり平手打ちのシーンや、激しい口論、衝撃的な別れ話からスタートさせ、「何が起きているんだ?」という強力なフック(掴み)で視聴者の指を止めさせます。「なぜそうなったか」という状況説明は、視聴者の興味を惹きつけた後に、セリフや展開の中で後出しで補足すれば良いのです。
「3秒に1回」の刺激と高密度な編集
離脱を防ぐためには「情報の密度」も極めて重要です。株式会社GOKKOとSepteni Japan株式会社の共同資料によれば、縦型動画においては「3秒ごとに新しい情報を提示し続ける」ことが推奨されています。
ごっこ倶楽部の編集では、役者のセリフとセリフの間にある「息継ぎ(ブレス)」すらもカットし、食い気味に会話が進行するようなテンポ感を作り出します。また、映像の最初から最後までBGMを途切れさせず、感情の起伏に合わせて音響を切り替えることで、視聴者の脳を常に刺激し続けます。60分のドラマのハイライトだけを抽出したような高密度な映像体験こそが、縦型動画ドラマがバズる最大の秘訣です。

参照記事:LP流入は10倍⁉Z世代が「見たら止まらない」動画を仕掛ける、「ごっこ倶楽部」のTikTokマーケ
4. 企業のマーケティングを変革する「物語の力」
この縦型動画のドラマは、単なるエンターテインメントの枠を超え、企業のマーケティング活動において「ゲームチェンジャー」としての役割を果たしています。
「広告アレルギー」を突破する
現代のZ世代は、自分たちの時間を奪う「割り込み型の広告」に対して強い嫌悪感を抱いています。動画視聴時にCMをスキップするユーザーは96.5%に上るというデータもあります。 しかし、Z総研の調査によると、Z世代の85.9%が「TikTokのショートドラマ広告にはポジティブな印象を持っている」と回答しています。
この違いは、企業が「機能やスペックを直接宣伝している」か、それとも「感情を動かす物語を提供している」かの違いにあります。株式会社GOKKOが制作する企業タイアップドラマでは、商品の説明を前面に出すのではなく、その商品があることで生まれる「日常の小さな愛」や「共感できる人間模様」を描きます。視聴者は「広告を見せられている」のではなく「面白いドラマを見ている」という感覚のまま、自然と企業ブランドに対する好意を醸成していくのです。

大手企業が続々と参入する圧倒的ROI
実際に、NTTドコモと株式会社GOKKOが共同で展開した「青春」をテーマにしたショートドラマシリーズでは、開始わずか1ヶ月でZ世代における施策認知率が40%を超えるという驚異的な成果を叩き出しました。投稿された動画の9割以上が100万回再生を突破し、ブランドへの親近感を劇的に向上させています。
縦型動画のドラマは、従来のテレビCMに比べて10分の1から100分の1のコストで制作が可能でありながら、ターゲット層へ深く、そして確実にリーチすることができます。さらに、ドラマ内で高まった熱量を、そのままサイト流入や購買(ダイレクトレスポンス)へと繋げる「フルファネル戦略」も実証されており、もはや企業にとって投資しない理由がないほどの強力なマーケティングインフラとなっています。
参照記事:平均200万再生・Z世代に圧倒的な認知度を誇る『ドコモ×青春』に学ぶ、縦型ショートドラマ成功の秘訣 (1/3):MarkeZine(マーケジン)
5. まとめ:縦型動画のドラマは、新しい「文化」へ
スマートフォンの画面の中で展開される「縦型動画のドラマ」は、単なる暇つぶしのコンテンツでも、横型映像の簡易版でもありません。 それは、視聴者との物理的な近さを活かした没入感、脳の処理速度に合わせた超高密度な編集、そして「広告を物語に変える」という全く新しい文法を持った、次世代の映像エンターテインメントです。
株式会社GOKKOは、2025年2月に縦型ショートドラマ専用アプリ「POPCORN」をローンチし、SNSでの無料視聴(フロー)だけでなく、ユーザーが自ら課金してじっくりと作品を楽しむ(ストック)という新しい経済圏の確立に挑んでいます。 「縦型動画でドラマを作る」。この新しい波は、一過性の流行を越え、日本発のコンテンツが世界を席巻するための、確固たる「文化」へと進化しようとしています。
