TikTokやYouTube ShortsなどのSNSで無料で視聴するのが当たり前だった「縦型ショートドラマ」の世界に、大きなビジネスモデルの転換点が訪れています。それが、専用アプリによる「1話課金型(Pay-per-episode)」モデルの台頭です。
中国や米国では、すでにこの課金型アプリがNetflixなどのサブスクリプション型動画サービスを脅かすほどの収益を生み出す巨大市場へと成長しています。日本でも「BUMP」や、ごっこ倶楽部(株式会社GOKKO)が2025年2月にローンチした「POPCORN」などが登場し、急速に普及し始めています。
なぜ、ユーザーは短い動画にお金を払うのでしょうか?そして、なぜクリエイターや企業はこのモデルに注目するのでしょうか? 本記事では、累計再生数100億回を突破したショートドラマのパイオニアである株式会社GOKKOの戦略や市場分析に基づき、ショートドラマアプリの収益構造と、その背後にある勝算を解説します。
1. 「1話課金型」の仕組み:マンガアプリの動画版
「待てば無料、すぐ見るなら課金」
「1話課金型」とは、連続ドラマを1話(約1分〜3分)単位でバラ売りするビジネスモデルです。 多くのショートドラマアプリでは、作品の冒頭数話(フックとなる部分)を完全無料で公開し、物語が盛り上がり、「続きが気になる!」というタイミングからロックがかかります。
株式会社GOKKOのCOO兼統括プロデューサーである志村優氏は、このモデルについて「マンガアプリに近い形式」であると説明しています。 ユーザーは続きを見るために、以下のいずれかのアクションを選択します。
- 課金: アプリ内通貨(コイン)を購入し、ロックを解除する。
- 広告視聴: 30秒程度の動画広告を見ることで、無料で1話分を解除する(Wait for Free / Watch to Unlock)。
- 待つ: 翌日まで待つことで、ログインボーナスを獲得できる。
SNSでは「おすすめフィード」に流れてくる動画を受動的に視聴しますが、アプリではユーザーが能動的に「この作品の続きが見たい」と選択するため、作品への没入度と熱量が圧倒的に高くなります。
2. なぜ「課金モデル」が必要なのか? SNS収益の限界
これまでごっこ倶楽部は、TikTokなどのプラットフォームで企業タイアップ(広告案件)を中心に収益を上げてきました。しかし、なぜ今、自社アプリによる直接課金モデルへと舵を切ったのでしょうか。そこには「クリエイターエコノミー」の確立という大きな目的があります。
スポンサーモデルの構造的課題
株式会社GOKKO代表の田中聡氏は、従来のSNSにおけるショートドラマの収益化の難しさについて言及しています。 当初は、ドラマの中に登場する服や飲み物などに複数のスポンサーをつけるモデルを模索していましたが、わずか1分〜3分という短い尺の中で複数の商品を宣伝することは、情報のノイズとなり、視聴者の離脱を招く懸念がありました。また、広告主にとってもコンバージョン(成果)が見えにくいという課題がありました。
これに対し、中国市場では「クリエイターが制作したコンテンツそのもので稼ぐ」というモデルが確立されています。 田中氏は、日本でもこのモデルを導入することで、スポンサーの意向に左右されすぎず、純粋に「面白い物語」を作ることでクリエイターが収益を得られる環境を作る必要があると判断しました。制作費を抑えられるショートドラマだからこそ、ユーザーからの少額課金の積み上げで制作費を回収(リクープ)し、利益を出すことが可能なのです。

3. アプリ「POPCORN」の勝算:価格と体験の再定義
株式会社GOKKOが2025年2月にリリースしたアプリ「POPCORN(ポップコーン)」は、先行するアプリや海外事例を徹底的に研究した上で設計されています。
「映画館」を超える没入UX
株式会社GOKKOのスタジオ事業部やアプリ開発チームは、既存のSNSやショートドラマアプリの課題として「画面上のノイズ」を挙げています。 通常のアプリでは、画面の上下にアイコンや説明文、余白が表示され、映像への没入感が削がれてしまいます。「POPCORN」では、これらの余白を極限まで排除し、スマートフォンの画面全体をスクリーンとして活用するUI/UXを採用しています。これにより、小さな画面であっても映画館のような没入体験を提供することを目指しています。
「ワンコイン」で楽しむ価格戦略
また、価格設定においても独自の戦略を持っています。 中国や北米のショートドラマは全60話〜100話といった長編が多く、全話視聴するには2,000円〜3,000円程度の課金が必要になるケースが一般的です。 しかし、株式会社GOKKOでは、日本市場の感覚に合わせて話をコンパクト(10話〜15話程度など)にまとめたり、あるいは長編であってもトータルの課金額を「マンガの単行本1冊分(約500円)」程度に抑えることを構想しています。 田中氏は、「ワンコインで泣ける、笑える体験」を提供することで、これまで課金に抵抗があった層を取り込み、日常的なエンタメ消費として定着させることを狙っています。

世界市場での成功事例「ReelShort」
このビジネスモデルのポテンシャルを証明しているのが、中国発のアプリ「ReelShort」の成功です。 市場調査によると、ReelShortは米国において、月によってはNetflixのダウンロード数を上回るほどの人気を博しています。サブスクリプション(定額制)ではなく、都度課金制を採用しているため、ヒット作が生まれた瞬間の爆発的な売上(ARPU:ユーザー平均単価)が高く、Netflixに匹敵する収益規模を叩き出すこともあると報告されています。 株式会社GOKKOは、この「ReelShort」のような世界的な成功モデルを、日本独自の高品質なクリエイティブで再現しようとしているのです。
参照記事:ショートドラマ×プロモーション|企業の最新活用事例25選 |ムビラボ(https://movi-lab.com/column/shortdrama_case/)
4. 収益モデルの多様化:IPの二次利用と広告
アプリの収益源は、ユーザーからの直接課金だけではありません。株式会社GOKKOでは、アプリを起点とした多角的な収益モデル(IPビジネス)を描いています。
広告収益と「Wait for Free」
アプリ内には、課金をしたくないユーザー向けに「広告を見て無料チャージ」をする機能が実装されています。これにより、無課金ユーザーであっても、時間をかけて視聴を継続することで、アプリ運営側には広告収益が入る仕組みになっています。 また、アプリ内で配信されるドラマ自体に企業の商品を登場させる「プロダクトプレイスメント」や、企業とのコラボ作品を配信することも可能です。
データに基づくヒットの再現性
アプリ運営の最大の強みは、詳細な視聴データを自社で保有できることです。 「どの話数のどのシーンで課金されたか」「どこで離脱したか」というデータを1秒単位で分析することで、脚本や演出の精度を上げ、次作のヒット確率を高めることができます。株式会社GOKKOでは、このデータドリブンな制作体制(Dramatech)により、制作費の回収率を一般的なドラマよりも高い水準(6割以上)に引き上げることを目標としています。

5. まとめ:クリエイターが「作品」で稼ぐ時代の到来
「1話課金型」のショートドラマアプリは、単なる新しい集金システムではありません。それは、これまで「広告のおまけ」や「暇つぶし」と見なされがちだったショート動画を、対価を払う価値のある「作品」へと昇華させるための装置です。
株式会社GOKKOが展開する「POPCORN」や、先行する「BUMP」などのアプリが普及することで、以下のような未来が予測されます。
- クリエイターへの還元: 再生数に応じた広告配分だけでなく、作品の売上がダイレクトに制作側に還元され、より高品質な作品が作れるようになる。
- ジャンルの多様化: スポンサーの顔色を伺う必要がないため、テレビでは放送しにくいニッチなジャンルや、過激なテーマ(復讐、愛憎劇など)も制作可能になる。
- グローバル展開: 言語の壁を超えやすいショートドラマは、アプリを通じて世界中に配信・販売される。

2029年には世界で約8.8兆円規模になると予測されるこの市場。株式会社GOKKOは、アプリというプラットフォームを持つことで、日本発のコンテンツを世界へ届ける「グローバルエンターテインメント企業」への進化を加速させています。
