低予算でもハイクオリティ!ごっこ倶楽部流「ワンチーム制作体制」の秘密

低予算でもハイクオリティ!ごっこ倶楽部流「ワンチーム制作体制」の秘密

エンターテインメント業界において、「クオリティ」と「コスト」は常にトレードオフの関係にあるとされてきました。良い作品を作るためには、莫大な制作費と長い期間、そして多くの専門スタッフが必要であるというのが、これまでの映像制作の常識でした。 しかし、その常識を真っ向から覆し、驚異的なスピードと低コストで、テレビドラマに匹敵する熱狂を生み出し続けている組織があります。それが、累計再生数100億回を突破したクリエイター集団「ごっこ倶楽部」を運営する株式会社GOKKOです。

なぜ、彼らは従来のテレビCMの10分の1とも言われる予算で、Z世代の心を掴むヒット作を連発できるのでしょうか。その秘密は、企画から配信、データ分析に至るまでを自社で完結させる徹底的な「ワンチーム制作体制」と、独自の人材戦略にありました。 本記事では、株式会社GOKKOの公開情報やメディアインタビューに基づき、高騰する制作費に悩む企業のマーケティング担当者や、効率的なコンテンツ制作を目指すクリエイターにとってのヒントとなる、GOKKO流の組織論と制作の裏側を徹底解剖します。


1. 業界の常識を覆す「完全内製化」の衝撃

「分業」から「統合」へのパラダイムシフト

日本のドラマや映画制作は、伝統的に「分業制」が主流です。広告代理店が企画し、制作会社が実務を行い、脚本家、監督、カメラマン、照明、音声、編集と、各工程が専門の外部スタッフや会社に委託されることが一般的です。この体制は専門性を高める一方で、コミュニケーションコストの増大や、意思決定の遅れ、そしてマージンによるコスト高騰を招く要因ともなっていました。

これに対し、株式会社GOKKOが採用しているのは、韓国のスタジオドラゴンや欧米の制作会社に見られるような世界基準の制作スタイル、すなわち「ワンチーム体制」です。 株式会社GOKKOによると、同社では脚本、撮影、編集、投稿、さらにはマーケティングや視聴データの分析に至るまで、すべての工程を自社内(インハウス)で行っています。 外部への発注を行わず、社内のリソースだけで完結させることで、中間マージンをカットするだけでなく、「今撮りたい」と思った瞬間に動き出せる圧倒的な機動力を手に入れました。

絵コンテすら作らないスピード感

この内製化のメリットが最も端的に表れているのが、「コンテの廃止」です。 通常のCMやドラマ制作では、撮影前に詳細な字コンテや絵コンテを作成し、クライアントや各部署とのすり合わせを行いますが、株式会社GOKKOではこの工程を基本的に行いません。 株式会社GOKKOのCOO兼統括プロデューサーである志村優氏は、過去に制作したイメージに近い動画をサンプルとして提示した後は、脚本が固まり次第すぐにキャスティングと撮影準備に入ると語っています。 現場の監督やカメラマンが「阿吽の呼吸」で画作りを共有できているため、詳細な設計図を用意する時間を削減し、その分をクリエイティブのブラッシュアップや、撮影本数の増加に充てることができるのです。


2. 制作費「1/10」を実現するコスト構造の秘密

物理的インフラの自前化

低コスト化のもう一つの要因は、撮影環境の自社保有です。 ドラマ撮影において、ロケ地の確保やスタジオレンタル料は大きなコスト要因となります。株式会社GOKKOでは、お台場エリアにある自社オフィスそのものを、撮影スタジオとして機能するように設計しています。 このオフィスは執務エリアだけでなく、カフェ、バー、リビング、病院の待合室など、ドラマによく登場するシチュエーションを再現したセットが常設されており、移動時間ゼロで多様なシーンを撮影することが可能です。 さらに、2025年2月には日本初となる縦型ショートドラマ特化型スタジオ「studio505」を設立し、天候や時間に左右されずに量産できる体制を強化しています。これにより、外部スタジオを借りる費用と手間を極限まで削減しています。

「1分単価」の革命

これらの工夫により、株式会社GOKKOの制作コストは劇的に圧縮されています。 一般的なテレビCMやドラマと比較して、1分あたりの制作単価は10分の1から100分の1にまで抑えられているといいます。 具体的には、企業のタイアップ案件であっても、企画・制作から広告配信までを含めたパッケージで数千万円規模(例えば2話制作+広告配信で1000万円〜)から実施可能であり、これはナショナルクライアントがテレビCMに投じる数億円という予算と比較すれば、破格のコストパフォーマンスと言えます。 安かろう悪かろうではなく、「縦型動画は画面の映り込み範囲が狭いため、大規模なセットを作り込む必要がない」というフォーマットの特性を逆手に取り、必要な部分にのみリソースを集中させることで、ハイエンドな機材で撮影したようなリッチな映像美を実現しているのです。


3. 「役者が社員」という独自の人材戦略

俳優の全員雇用モデル

株式会社GOKKOの組織体制において最もユニークな点が、「俳優を正社員として雇用している」ことです。 通常、俳優は芸能事務所に所属するかフリーランスとして活動し、作品ごとに契約を結びますが、GOKKOでは主要なキャストが社員として会社に在籍しています。 これにより、オーディションやスケジュール調整の手間が省け、急な撮影にも柔軟に対応できます。また、俳優たちは出演がない日には、脚本執筆、動画編集、小道具の買い出し、スタイリングなど、制作スタッフとしての業務も兼任します。

「演じる」だけではないマルチクリエイター

創業メンバーである多田智氏(総監督・脚本・俳優)、早坂架威氏(監督・脚本・俳優)、渡辺大貴氏(演出・スタイリスト・俳優)などが体現するように、GOKKOのメンバーは「演者」であり「作り手」でもあります。 演者が編集の意図を理解しているため、撮影現場では「ここはこの秒数で切るから、こういう間で喋ろう」といった高度な共通認識のもとで演技が行われます。また、編集作業を自ら行うことで、自分の演技を客観的に見直す機会にもなり、演技力の向上にもつながるという好循環が生まれています。 株式会社GOKKO代表の田中聡氏は、ビジネス人材とエンタメ人材の両輪を持つことの重要性を説いており、エンタメをライフスタイルとして消費しつつ、ビジネス視点で制作に関われる人材を育成・採用しています。


4. データとクリエイティブの融合:「Dramatech」

R&Dとしての「ピュアコンテンツ」

株式会社GOKKOは、クライアントワーク(企業案件)だけでなく、自社のオリジナル作品(ピュアコンテンツ)を毎月大量に制作・投稿しています。 田中代表によると、このピュアコンテンツ制作は「R&D(研究開発)」として位置付けられています。 利益度外視で様々なジャンルや演出を試し、視聴者の反応(再生数、維持率、コメント)をデータとして蓄積します。そこで得られた「勝ちパターン」や「最新のトレンド」を、失敗が許されない企業案件に転用することで、確実な成果(バズ)を保証しているのです。

高速PDCAによるヒットの再現性

年間数千本という圧倒的な制作本数は、単なる量の追求ではなく、PDCAサイクルの回転数を最大化するための戦略です。 配信直後から視聴維持率のデータを秒単位で分析し、「どこで離脱されたか」「どのフックが効いたか」を検証します。その結果は翌日の撮影や編集に即座にフィードバックされます。 株式会社GOKKOと日本テレビが共同運営するアカウント「毎日はにかむ僕たちは。」では、この高速PDCAにより、約3日に1本というハイペースで高品質なドラマを配信し続け、総再生数20億回を超える巨大メディアへと成長しました。 「感性」だけに頼るのではなく、「データ」に基づいてクリエイティブを修正し続ける姿勢こそが、GOKKOが掲げる「Dramatech(ドラマ×テクノロジー)」の本質なのです。


5. 企業との「共創」が生む新しい広告の形

「言われた通り」には作らない

株式会社GOKKOのワンチーム体制は、クライアントとの関係性にも変化をもたらしています。 従来の広告制作では、広告主の要望を代理店が聞き、それを制作会社に下ろすという伝言ゲームになりがちでしたが、GOKKOではビジネスプロデューサーとクリエイターが一体となってクライアントと向き合います。 田中代表は、「言われた通りに作ったコンテンツはバズらない」と断言し、クリエイティブの質を担保するために、時にはクライアントの要望に対して「それはドラマの自然な流れを壊す」と修正案を提案することもあります。 しかし、それは対立ではなく、クライアントの伝えたいメッセージを「視聴者が見たくなる物語」へと翻訳するための建設的な議論です。NTTドコモやJALといった大手企業がGOKKOをパートナーに選ぶ理由は、単なる下請けではなく、成果を出すための「戦略的パートナー」としての信頼があるからです。


6. まとめ:2030年、「撮影村」構想へ向けて

株式会社GOKKOが構築した「ワンチーム制作体制」は、日本の映像産業が抱える「高コスト・長時間労働・分業による硬直化」という課題に対する一つの解です。 低予算でもハイクオリティな作品を生み出せるこのモデルは、クリエイターに適切な収益を還元し、持続可能な創作環境を守るための防波堤ともなっています。

株式会社GOKKOは今後、この体制をさらに拡張し、2030年までに大規模な「撮影村」を作る構想を掲げています。そこでは、さらに効率的かつ大規模な撮影が可能になり、ショートドラマだけでなく、長編ドラマや映画までもが、この新しいメソッドで作られるようになるでしょう。 「ごっこ倶楽部」の挑戦は、単なるSNSの流行作りではありません。デジタル時代の新しい「スタジオシステム」を構築し、日本発のエンターテインメントを世界へ輸出するための、壮大な産業革命の第一歩なのです。

参照記事:縦型ドラマを効率的&クリエイティブに制作できる環境を!GOKKOのオフィス見学ツアー | IBASHO.