スマートフォンの普及により、TikTokやYouTube Shorts、Instagramのリールなど、「縦型動画」は私たちの日常に欠かせないメインコンテンツとなりました。企業のマーケティングにおいても、縦型動画の活用は必須の戦略となっています。 しかし、いざ自社で動画を作ろうとした際、「横型動画と同じように作っているのに全く再生されない」「すぐスワイプされてしまう」と悩む担当者やクリエイターは少なくありません。
累計再生数100億回を突破した日本No.1のショートドラマクリエイター集団を運営する株式会社GOKKO(ごっこ倶楽部)によると、縦型動画で失敗する最大の原因は「横型動画(テレビや映画)の作り方や成功体験をそのまま持ち込んでいること」にあります。縦型(9:16)には、縦型ならではの全く異なる「勝てる文法」が存在するのです。
本記事では、株式会社GOKKOの制作現場で実践されている、バズる縦型動画の「作り方」を、構成・撮影・編集・分析の4つのステップに分けて徹底解説します。高価な機材がなくても、スマホ1台と正しいロジックがあれば、誰でも圧倒的な没入感を生み出すことが可能です。

1. 構成(脚本)の作り方:「起承転結」を捨て、冒頭3秒に全力を注ぐ
縦型動画の作り方において、最初に捨てるべき常識が「起承転結」という物語の基本構成です。
いきなり「転(ハプニング)」から始める
株式会社GOKKOの統括プロデューサーである志村優氏は、縦型動画において「起(状況説明)」から物語を始めると、ユーザーが即座に離脱してしまうと指摘しています。スワイプ一つで次の動画へ移動できるTikTokなどにおいて、「ここはどこで、誰が何をしているのか」という数秒間の説明は、視聴者にとって「退屈な時間」でしかありません。
そのため、株式会社GOKKOでは「最初の2秒でハプニング(転)を持ってくる」という手法を採用しています。冒頭からいきなり平手打ちのシーンや、激しい口論、衝撃的な告白からスタートさせ、視聴者に「何が起きているんだ?」という強力なフック(興味)を与え、指を止めさせます。「なぜそうなったか」という状況説明は、その後のセリフや展開の中で後出しで補足すれば十分なのです。
「1秒で次の5秒を予測させる」
また、最初の1秒の映像で「次の5秒間に何が起こるかを予測させられるか」も重要なポイントです。例えば、「今にもボールを蹴ろうとしている瞬間」から動画が始まれば、視聴者は「ゴールに入るか、外すか」という直後の展開に対する期待や予測を持ち、その答え合わせをするために視聴を継続してくれます。

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2. 撮影の作り方:「Z軸(奥行き)」と「接写」で没入感を生む
縦型(9:16)の画角は、横長(16:9)に比べて左右の空間が極端に狭くなります。この物理的な制約を理解したカメラワークが求められます。
横並びを避け、手前と奥(Z軸)を使う
テレビドラマの会話シーンでは、二人の人物を横並びに配置する手法が一般的ですが、縦型画面でこれをやると人物が小さくなりすぎるか、窮屈な印象を与えてしまいます。 株式会社GOKKOの撮影チームは、横並びを極力避け、人物を手前と奥に配置する「前後」の関係性で構図を作ります。一人の肩越しにもう一人を映す(ナメる)アングルや、カメラに向かって人物が迫ってくるような「縦方向のベクトル(Z軸)」を持った映像は、スマホの小さな画面を立体的に見せ、視聴者の視線を自然と画面中央に集中させる効果があります。
背景を作り込まず、役者の表情に「接写」する
株式会社GOKKO代表の田中聡氏は、「縦型って人間ドラマの部分が主なんですよ。接写も多いし、その分背景とか衣装とか“凝って作るもの”は端折って撮影ができます」と語っています。 縦型画面は視聴者の目との距離が近いため、役者の顔を画面いっぱいに映し出す「接写(アップ)」に最強の適性を持っています。壮大な風景や作り込まれたセットがなくても、微細な表情の変化や感情の揺らぎがダイレクトに伝わります。背景をあえて見せないことで、制作コストを大幅に抑えつつ、映画並みのクオリティと没入感(イマーシブ体験)を実現できるのです。

参照記事:【連載】中山淳雄の「推しもオタクもグローバル」第66回 ドラマ界の革命児「ごっこ倶楽部」―エンタメ×ビジネスでTikTokを制した映像ベンチャー | gamebiz
3. 編集の作り方:「3秒の法則」と「間の排除」
撮影された素材をどう繋ぐかという「編集」工程こそが、視聴維持率を決定づける生命線となります。
息継ぎ(ブレス)すらカットする高密度編集
Z世代の集中力は非常に短く、少しでも「中だるみ」を感じたら即座に離脱してしまいます。株式会社GOKKOの分析によれば、ショートドラマにおいて視聴者の離脱を防ぐためには、「3秒に1回」新しい刺激や情報(カット割り、テロップ、効果音、新しい展開など)を提示し続ける必要があります。 通常のドラマであれば、情緒を表現するために沈黙の時間(間)を作りますが、縦型動画ではそれが命取りになります。私たち『ごっこ倶楽部』の編集では、役者のセリフとセリフの間にある息継ぎ(ブレス)すらもカットし、食い気味に会話が進行するように調整しています。この圧倒的な「情報の密度」とテンポ感が、視聴者を最後まで飽きさせない秘訣です。
音楽(BGM)を途切れさせず感情を誘導する
また、音響効果も極めて重要です。スワイプ文化のあるプラットフォームにおいて「無音」の時間を作ることは、視聴者を現実に引き戻すリスクとなります。株式会社GOKKOの作品では、映像の始まりから終わりまで延々とBGMを流し続け、シーンの展開に合わせて瞬時に楽曲のトーンを切り替えることで、視聴者の感情をコントロールしています。さらに、映像の彩度(色の鮮やかさ)を高く設定することで、スマホ画面での視認性とインパクトを強めています。

4. 改善の作り方:データ分析とコメント欄の設計
動画は「作って投稿して終わり」ではありません。SNSの特性を活かし、次回のバズを生むための分析を行う工程が不可欠です。
アナリティクスで「開始5秒」の離脱率を見る
株式会社GOKKOでは、動画公開後のデータを徹底的に分析しています。特に重視しているのが「開始5秒時点での視聴維持率」です。この時点で50%以上の視聴者が残っているかを一つの基準とし、もし離脱が多い場合は「冒頭のフックが弱かった」「テンポが悪かった」と判断し、次の企画や編集に即座にフィードバックします。
「神コメ」を意図的に誘発する
さらに、バズる縦型動画の作り方において欠かせないのが「コメント欄の設計」です。株式会社GOKKOでは、あえて動画内に「ツッコミどころ」や「説明しきらない余白」を仕込み、視聴者が思わずコメントしたくなるような構造を作っています。コメント欄で議論が白熱したり、多くの「いいね」を集める神コメントが生まれたりすることで、動画の滞在時間が延び、アルゴリズムからの評価が高まって爆発的な拡散(バズ)へと繋がるのです。

参照記事:LP流入は10倍⁉Z世代が「見たら止まらない」動画を仕掛ける、「ごっこ倶楽部」のTikTokマーケ
まとめ:縦型動画の作り方は「制約」ではなく「新しい文法」である
縦型動画の作り方をまとめると、以下の4つのステップに集約されます。
- 構成: 「起承転結」を捨て、冒頭の「転」で一気に惹きつける。
- 撮影: 横並びを避け、Z軸(奥行き)と接写で没入感を生む。
- 編集: 「3秒の法則」とブレスカットで、情報の密度を極限まで高める。
- 改善: 開始5秒の維持率とコメント欄を分析し、次の動画の質を上げる。
「画面が狭い」「スマホでしか見られない」というのは、決してクリエイティブの制約ではありません。株式会社GOKKOが実践するように、そのデバイスの特性と視聴者の心理を深く理解し、最適化された「新しい文法」を用いることで、縦型動画はテレビや映画にも負けない、極めて強力な表現ツールとなります。
もし現在、縦型動画の制作やマーケティング活用に行き詰まりを感じているのであれば、一度「これまでの横型の作り方」をアンラーニング(学習棄却)し、今回ご紹介したロジックを取り入れてみてください。そこには、まだ見ぬ数百万回の再生と、熱狂的なファンとの出会いが待っているはずです。
